2017年4月2日日曜日

マラソンとウォーキング(1):どちらも危険

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朝起きて走りにいくというのは、どうも非常にマズイらしい。
 でも、やめない。
 なぜ。
 こういう理屈はいくらでもつけられるから。
 今日はこういう説が一般的的だが、明日にはまた違う説が出てくる。
 それがいつの世でも進化を道を歩いているかぎり変わらないということである。
 気分よくやれるならやっていた方がいい。
 ただ、少々過酷になっている場合もありえるが、それもそれであきらめることである。
 少しばかり長生きしても、どうなるものでもあるまい。


ニューズウィーク日本版 3/31(金) 19:00配信 ティム・マーチン
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/03/post-7292.php

マラソンでランナーの腎臓が壊される


●マラソンは昔から危険な競技ではあったが…… BraunS-iStock.

<最新の研究でマラソンに参加したランナーの82%に急性腎障害の症状が出ていることがわかった。
マラソンは心臓への負担だけでなく、腎臓障害を通じて他の臓器にも悪影響を及ぼす可能性がある>

 マラソンを走ることは昔から危険な行為だった

 歴史書によれば、最初のマラソンランナーと言われるギリシャの兵士ピリッピデスは、マラトンからアテネまで約40キロの道のりを走ってギリシャ軍の勝利を伝令した後、倒れ込んで亡くなった。

 それならば、42.195キロを走る現代のマラソンが、ランナーの体に悪影響を及ぼすことは当然のことだろう。
 今週、腎臓病専門の医学誌に掲載されたイエール大学の研究で、マラソンランナーの腎臓が一時的に損傷を受ける可能性があることがわかった。

 今回の研究では、2015年にコネチカット州ハートフォードで開催されたマラソン大会の参加者から、血液と尿を採取して分析した。
 するとランナーの82%が、軽度の急性腎障害にかかっていることが分かった。
 つまり腎臓が、血液から老廃物を正常に濾過できていないことを意味する。

 全米腎臓財団によると、この腎臓障害によって脳や心臓、肺など他の臓器に悪影響を及ぼす可能性もある。
 「マラソンを走る肉体的なストレスによって、腎臓がダメージを受ける。
 ある意味、入院患者が治療後や手術後に合併症を発症するのに似ている症状だ」
と、研究チームのリーダー、チラグ・パリク医師は述べている。

 研究によると、腎臓の損傷はマラソン後2日以内には治る。
 しかしマラソンでどれだけの損傷を受けるか解明するには、さらに研究の継続が必要だと研究チームは主張している。

 「これまでマラソンによって心臓機能に変化が生じることは研究で分かっていたが、我々の研究によって、腎臓もマラソンのストレスで影響を受けることが新たに判明した」
と、パリクは述べている。

 多くの人たちは、マラソンランナーがスポーツによる典型的な症状に苦しむことは予想している。
 健康情報サイト「ランナーズ・ワールド」によると、ランナーの最も典型的な
 「体の不調」には、膝の痛みやアキレス腱炎、すねの骨に痛みが出る過労性骨膜炎などがある。


東洋経済オンライン モノ・マガジン編集部 2017年04月01日
http://toyokeizai.net/articles/-/164984

「歩く」がどれだけ体に効くか知っていますか
この蘊蓄100章は思わず人に話したくなる

モノ情報誌のパイオニア『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス社)と東洋経済オンラインのコラボ企画。ちょいと一杯に役立つアレコレソレ。「蘊蓄の箪笥」をお届けしよう。
蘊蓄の箪笥とはひとつのモノとコトのストーリーを100個の引き出しに斬った知識の宝庫。
モノ・マガジンで長年続く人気連載だ。
今回のテーマは「ウォーキング」。
あっという間に身に付く、これぞ究極の知的な暇つぶし。
引き出しを覗いたキミはすっかり教養人だ。

1. ウォーキングは比較的負荷の少ない有酸素運動である

2. 日本で競技人口が最も多いスポーツはウォーキング、2位ボウリング、3位水泳

3. 日本のウォーキング人口はおよそ4000万人

4. 下半身には体全体の筋肉の約70%が集まっている

5. 歩くときは大腿四頭筋(大腿直筋・広筋)、大腿二頭筋、前脛骨筋、下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋)など大きな筋肉をいちどに使い、同時に腹筋や腰、腕の筋肉も使っている

6. 「歩く」とは、どちらか片足が常に地面に着いている状態。
 「走る」とは、両足が宙に浮く瞬間がある状態

7. ランニングでは体重の3倍の衝撃が、
 ウォーキングでは体重の約1.5倍の衝撃がかかる

8.競歩には「常にどちらかの足が地面に接していること」
 「前脚は着地から地面と垂直になるまで膝を伸ばすこと」
という厳密なルールがある。

9. 競歩の最高速度は時速14㎞にも達する

10. 速度が速くなると、歩くより走るほうが疲れにくい。
 秒速2mでは歩くより走るほうが脚の主要な筋肉をうまく使用でき、身体のエネルギー使用効率が向上するため

11. ウォーキングなどの運動で酸素を取り入れ運動の効果を高めようという「有酸素運動」の考え方は、米国の運動生理学者のケネス・クーパー博士が1960年代に提唱した

■今後やってみたい運動として人気

12. 内閣府の調査で「今後やってみたい運動はウォーキング」と答えた人が平成3年以来不動の第1位

13. 「この1年間に行なった運動」も平成6年から「ウォーキング」がトップの座を守り続けている

14. ウォーキングの適正な歩幅の計算式として最も簡単なものが
 「身長-100センチメートル」
 身長165センチメートルの人なら「165センチメートル-100センチメートル」で65㎝が適正なウォーキングの歩幅ということになる

15. 日本人の平均的な歩行スピードは分速70~90メートル程度、歩幅は70~80センチメートル程度

16. 一般的な成人の歩行ピッチは、個人差はあるが1分あたり100歩程度(タニタ社内実験データより)

17. 厚労省「健康づくりのための身体活動基準2013」では18~65才の人で
 「歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分以上行う」ことが望ましい
とされている

18. 厚労省の「健康日本21」では、
 1日の歩数の目標値を男性9000歩、女性8500歩以上
 (65歳以上の場合は男性7000歩、女性6000歩)
としている

19. 東京都健康長寿医療センター研究所の研究では
 病気予防ウォーキングに最適な歩数は速歩き20分を含め1日平均8000歩
とし、歩き過ぎには注意を促してもいる

20. 厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成27年)によれば
 成人の1 日の平均歩数は男性7194歩、女性6227歩

21. 江戸時代、庶民は1日3万歩歩いていたとされている

22. 江戸時代の飛脚は江戸から京都まで約5日で踏破した

23. 身長160㎝の人が速歩で「1万歩」歩く距離はおよそ6キロメートル
 (注:1時間半ほどになる)

24. ウォーキングの消費カロリーは、条件によっても変わるが60キログラムの人が普通の速さで1時間歩いて200kcal程度

25. 1日1万歩歩くと300~400kcalが消費される

26. 1日平均9000~1万歩のウォーキングを2週間続けると1キログラムの脂肪を減少させることになる

27. 1日平均1万歩歩く人の割合は男性30%、女性で20%

■地位が上がるほど歩数が減る? 
 高年収の人は?

28. ある調査ではサラリーマンは地位が上がるほど歩数が減る傾向にあり、
 課長・部長級の1日平均歩数7000歩、部長クラス5000歩、重役クラス3000歩程度
との結果が出た

29. 一方でドコモヘルスケア社「からだデータ」白書2015では高年収の人ほどよく歩く傾向にあるというデータも

30. 主婦のケースでは1日中家で家事をしている場合でおよそ2500歩
 買い物をした場合は5000歩程度

31. 「国民健康・栄養調査」(平成22年)によると、都道府県別で1日平均歩数が最も多いのは男女とも兵庫県

32. 1日平均歩数が最も少ない県は男性は鳥取、女性は山梨

33. 給水は歩き出す30分前、300~500mlが推奨される

34. 脱水作用があるため飲酒後のウォーキングは厳禁

35. ウォーキング直後のアルコール摂取も危険。
 ウォーキング後はまず水を1杯飲むことが勧められている

36. ウォーキングには身体に蓄積した脂肪を効率よく燃焼させる効果がある

37. これは体脂肪・内臓脂肪との関係が強い血中脂質や血圧、糖代謝、肝機能の指標を改善させることにもつながる

38. 1日30分のウォーキングを継続した結果、心疾患や脳卒中、糖尿病の発症が約30~40%減少したという報告も

39. ウォーキングによって心拍数が増大すると体内に酸素を取り込む能力が高まり、心肺機能を高めることができる

40. 心臓の筋肉のエネルギー源として欠かせない乳酸は運動により作られる。
 乳酸エネルギーを安定供給するには激しい運動よりウォーキングのような適度な運動が効果的

41. ウォーキングで鍛えられるのは持久力用の筋肉。
 持久力用の筋肉は瞬発力用の筋肉と違って肥大化しない

42. 「まったく歩かない人」「1日15分歩く人」「同30分」「同1時間」のグループに分けて行った大規模な研究では、「1日1時間歩く人」が最も長生きした

43. ウォーキング継続は動脈硬化予防にも効果がみられる

44. 「足は第二の心臓」と呼ばれ、筋肉を動かすと血液をポンプのように循環させ、血流をスムーズにする効果がある

45. 血液の循環が良くなると新陳代謝が活発になり、冷え性の緩和など体質改善にもつながる

46. ウォーキングには骨粗しょう症など骨の老化防止効果も。
 骨はカルシウムの摂取だけでなく刺激を与えられることで筋肉とともに強化される。
 日光を浴びるのも有効

47. 毎日30分歩く習慣は大腿骨骨折リスクを40%下げる

48. 厚生労働省のメタボリックシンドローム対策として出されている運動指針では
 「速歩」が薦められている

49. 速歩は、一般にいう「普通歩行」を時速4キロメートルとすると
 時速5~6キロメートル程度の歩行を指すことが多い

■歩くスピードが速い人は寿命が長い?

50. 最新の運動生理学で、歩くスピードが速い人は、スピードが遅い人よりも寿命が長い傾向が明らかになった

51. ウォーキングには脳を活性化させる効果が期待できる

52. 40分のウォーキングを週3回行なったところ脳の記憶をつかさどる海馬が1年で2%増量したとの報告もある

53. 米国のアルツハイマー協会は「脳を守る10の方法」のひとつに「1 日30分以上の散歩」をあげている

54. ウォーキングは、メンタルヘルス分野での効果も注目され、「うつ病」予防にも効果的といわれる

55. 20~30分ウォーキングを続けると快楽ホルモンのβエンドルフィンやセロトニンが分泌され始めるといわれる

56. 禅には心を無にして10~20分歩く「歩行禅」があり、脳内の情報が整理される効果が期待できるとしている

57. 古代ギリシャの医学の祖ヒポクラテスは「歩くことが最良の薬」という言葉を残したと伝えられる

58. アリストテレスの時代は回廊を歩きながら講義することが哲学者のステータスとなり「逍遥(しょうよう)学派」と呼ばれた

59. これはアリストテレスの師であるプラトンがオリーブの樹の下を遊歩しながら講義した習慣を受け継いだもの

60. さらにプラトンの師ソクラテスも歩いて問答したことで知られ、ギリシャ哲学は歩きながら生まれた
61. 作曲家のベートーヴェンは散歩好きで知られ、五線譜と筆記用具を携行し、楽想が湧くと歩きながらメモした

62. ダーウィンは自宅に考えごと用の散歩道を作り、一周するごとに石を数え、問題の難易度を石の数で表現した

63. 小説家ディケンズは日に30マイル(約48キロメートル)も歩き、そのなかで小説の登場人物たちを生み出した

64. アップル創業者スティーブ・ジョブズは「ウォーキングミーティング」を実践していた

65. フェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグ、ツイッター創業者ジャック・ドーシーもウォーキング会議を導入

66. ウォーキングは「正しい姿勢」「腹式呼吸」を意識することでより消費カロリーが増え、健康効果が高まる

67. 1週間に1回程度まとめてウォーキングをするのは効果が少なく、3日以上ブランクを作らないことが理想

68. 早朝は、体内の血糖値が低いためウォーキング前に糖分の補給を心がけたい時間帯。
 また関節や心臓に負担がかかりやすいためウォーミングアップするなど注意が必要

■関節への負担が気になる方には

69. 水中ウォーキングは、関節への負担が少なく水の抵抗で運動消費量が多い効率のよい運動

70. ノルディックウォーキングは2本のポール(杖)を使って歩くスタイル。通常のウォーキングに比べ足の負担を約10~20%、膝の関節や脊椎にかかる負担を約5キログラム軽減

71. ノルディックウォーキングは、発祥の地フィンランドで国民の約20%が週1度の頻度で楽しんでいる

72. ウォーキングの際の靴は、怪我防止のためにも専用のウォーキングシューズを履くことが推奨される

73. ウォーキングシューズの市場は510億円。
 前年比約4.5%の伸び率を示している

74. 江戸時代の発明家平賀源内は舶来の歩数計を腰にぶら下げるタイプのものに改良し「量程器」と名づけた

75. 「万歩計」の商品名は山佐時計計器株式会社の登録商標

76. 横浜市では市民を対象に、参加登録者に歩数計を贈り、歩数に応じてポイントを付与し、抽選で景品が当たる「よこはまウォーキングポイント」を実施している

77. さらに参加者の平均歩数が10万歩に達した月は国連WFPに20万円を寄付する仕組みとなっている

78. 日本ウオーキング協会は1964年10月に「歩け歩けの会」として東京で発足した

79. 日本ウオーキング協会では、初心者からベテランウォーカーまでを対象にウォーキング教室、講習会を実施中

80. 世界最大のウォーキング大会はオランダで開催される「ナイメーヘン国際フォーデーマーチ」。
 参加者は4万6000人

81. 「フォーデーマーチ」は、かつて軍人が荷物を背負って行った訓練が発祥。
 2016年で100回目を迎えた

82. 「フォーデーマーチ」は30キロメートル、50キロメートル等コースが設定され、4日間かけてタイムを競わず完歩を目指すもの

83. 4日間一定距離以上を完歩した参加者は、オランダ王室布告に定める四日間十字勲章を受勲する

84. 日本各地では年間を通して約3000ものウォーキング大会が開催されている

85. マーチングウォークは、ウォーキング愛好者が集まり、一定の距離のコース設定を行ない、定められた時間に基づき歩くことを楽しむウォーキングスタイル

86. 日本では、自治体と日本ウオーキング協会が共催しているジャパンマーチングリーグがその代表例

87. ジャパンマーチングリーグに参加するウォーカーは各地の大会の踏破距離を合計した距離認定を受けられる

88. 国内最大の大会は埼玉県東松山市で開催される「日本スリーデーマーチ」で、世界でも2番目に大きな大会

89. 熊本県で開催される「九州国際スリーデーマーチ」は国内で2番目に大きい規模を誇る大会

■参加者2万人の大会も

90. 高杉晋作没後120年記念としてスタートした「維新・海峡ウォーク」も参加者2万人に及ぶ国内屈指の大会

91. 「京王沿線ウォーキング」は歩行マナーや運営に対する苦情への対応の目途がたたず2015年に中止となった

92. 1997年に屋久島で開催された100キロメートルウォークは、参加者27人のうち22人が脱落する過酷なレースとなった

93. 2016年からは屋久島100キロメートルウルトラウォーキング フリーウォーク大会が開催されている。
 2017年は11月の予定

94. 「美しい日本の歩きたくなるみち500選」は日本ウオーキング協会が2004年に選定した500コース

95. 「フットパス」は英国発祥の「歩くことを楽しむための道」で、英国内を網の目のように走っている公共の散歩道

96. 英国では昔から公衆が通る道があった土地は誰でも通る権利があるとしてフットパスが整備されてきた

97. 英国のフットパスウォークの経済効果は1兆円に及ぶ

98. 「新日本歩く道紀行100選」は全国の自治体の応募の中から各界の著名人と厚労省、経産省、環境省、観光庁、農水省、国交省、文化庁などのアドバイザーによる選考委員会で選定された道遺産というべきウォーキングコース

99. 「新日本歩く道紀行」は2015~2016年、10のテーマごとに100コース、計1000コースが発表された

100. 「新日本歩く道紀行」の道を歩いた距離や踏破コースのトータルを表彰する制度「歩きんぐくらぶ」も発足した

(文:森谷 美香/モノ・マガジン2017年2月16日号より転載)

参考文献・HP/『知識ゼロからのウォーキング入門』(幻冬舎)、『歩くとなぜいいか?』(PHP研究所)、『かんたん健康法 コツのコツ1 毎日! 歩いて走って』(リブリオ出版)、〈日本ウオーキング協会〉〈パナソニック〉〈養命酒製造〉〈タニタ〉各ホームページ、他関連サイト



【参考】


東洋経済オンライン 2016年01月12日 青栁 幸利 :東京都健康長寿医療センター研究所 運動科学研究室長
http://toyokeizai.net/articles/-/100087

「1日1万歩で健康になる」は大きなウソだった
15年にわたる研究で"黄金律"が明らかに

新しい年を迎えて、今年は運動を始めよう!というビジネスパーソンも多いはず。
中でも人気なのが、ウォーキング。
今や、健康のために歩く人は、全国で4000万人ともいわれる。
しかし、「健康のために」と始めたウォーキングが、実はあなたを病気に導くものだったとしたら……。
15年に及ぶ追跡調査で、「健康のいい歩き方・悪い歩き方」を突きとめ、『あさイチ』『おはようニッポン』『たけしの家庭の医学』などメディアでも話題沸騰の医学博士が、あなたがついやってしまう「やってはいけない」ウォーキングについて明かす。

■なぜ、ウォーキングで病気になるのか?

「毎日1万歩は歩いているから大丈夫です!」
「毎朝、犬の散歩を日課にしています」
「歩くだけじゃ物足りなくて、ランニングも始めました」

 「ウォーキング」を生活に取り入れている人はとても多いようです。
 人は、いったい何のために歩いたり、運動したりしているのでしょうか?
 すべての方に共通している目的が、ひとつあります。
 それは「健康」のためです。
 しかし、これまで健康によいと信じてきた歩き方が、実は「健康を害するもの」であったら、あなたはどう思いますか?

 私がみなさんにお伝えしたいことがあります。
 まず「1日1万歩」を目指す、という考えをやめていただきたい、
ということです。
 歩数はひとつの目安にはなりますが、歩数「だけ」を信じて、一喜一憂していては、健康長寿という点では、間違った運動になってしまうからです。

 私は長年、生涯を通しての健康づくりの研究に携わってきました。
 群馬県中之条町に住む65 歳以上の全住民5000人にモニターとなっていただき、1日24時間365日の生活行動データを15年にわたって収集・分析し、身体活動と病気予防の関係について調査してきました。
 その結果、「誰もが健康であり続けられる歩き方」が存在することがわかったのです。
 けれども、健康にいい「歩き方」は、残念ながらまだまだ広くは知られていません。
 そのため、「健康のためにちゃんと歩いているよ」と自負している人が健康を害してしまっているケースが、数多く見られるのです。

 代表的なものが、「毎日1万歩を歩けば健康になる」というものです。
 これは、かつて健康スローガンとして掲げられた「1日1万歩以上歩こう」が、世の中に広まったからのようです。
 「毎日1万歩以上歩いてさえいればOK」という誤った認識をさらに推し進めたものが、「歩けば歩くほど健康になる」という考えです。
 この言葉を信じ、毎日歩数計をつけて、1万歩よりも2万歩、2万歩よりも3万歩……と一歩でも歩数を伸ばそうと頑張っている人もいるのではないでしょうか?
 けれど、「歩けば歩くほど健康になる」という認識もまた、大きな間違いです。
 実は運動のしすぎは、健康効果がないどころか、健康を害することになります。
 なぜなら、免疫力が低下するからです

■トライアスロンにはまった結果、動脈硬化に

 私の知人である、経営者の男性もそうでした。
 彼は、得意先との会食が多く、忙しい毎日を送っていたところ、1年間で10キロも太ってしまいました。
 そこで、メタボ対策として40歳の時にウォーキングを始め、やがてランニングへ移り、ついには経営者仲間に誘われてトライアスロンに挑戦するようになりました。

 トライアスロンの練習を始めてから1年半後、大会に出場すると、見事に完走。
 メタボの頃とはまったく違った、引き締まった体型になり、どこから見ても健康そうになりました。
 ところが、40代半ば。9度目の完走を目指して大会出場を目前にしていた頃、体に異変が生じました。
 手足がしびれ、太ももの裏側やふくらはぎに痛みが出るようになったのです。
 診断の結果は、動脈硬化。経営者の男性にとって、トライアスロンは激しすぎる運動だったのです。

 動脈硬化は、血管が詰まる病気です。
 血管というのは、もともとはきれいなパイプ状の形をしているのですが、血流中のいろいろな物質が悪さをして、血管内を傷つけるのです。
 若い頃は、血管内の傷をキレイに修復する力があるのですが、歳を重ねると、傷の修復が間に合わなくなります。
 その結果、血管内が細くなったり、でこぼこした状態になったりしてしまいます。
 激しい運動をしている時、人は心臓からものすごい量の血液を送り出します。
 大量の血が、流れにくくなった血管を通ろうとすればするほど、血管は詰まっていきます。
 「激しい運動ができるほど、健康度も上がっている」という認識も、間違っているわけです。

■健康に効く歩き方には、「黄金律」がある

 一方、効果的なウォーキングというものも存在します。
 日本人の「平均寿命」は、男性が79・94歳、女性が86・41歳です。
 高血圧症、糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞、脳卒中、認知症、ガンなど生活習慣病……健康に対する不安を数え上げれば、キリがありません。
 ところが、こういった
 すべての病気に対して「ある指標に基づいたウォーキング」が効果的である
ということが、研究を通じてわかってきました。
 ひとことでいえば、やりすぎでもなく、足りなすぎでもない「ほどほどの運動」です。
 「ほどほどの運動」こそが
あなたの健康に対する「万能薬」なのです。

 先ほどの経営者の例でお伝えしたとおり、「歩けば歩くほど健康になる」と思って歩きすぎれば、免疫力が低下し、病気になりやすくなります。
 「やりすぎは体に毒」なのです。
 だからといって、「足りなすぎても体に毒」。
 犬の散歩やスポーツクラブでの運動で疲れてしまい、それ以外の時間にぐったりしていては、健康を害してしまうのです。

 では「ほどほど」の運動とはどんなものか
 「ほどほど」といっても感覚値ではありません。
 しっかりとした指標があります。
 「歩数」でも、「消費カロリー」でもありません。
 では、いったいどんなものでしょうか? 

■「ほどほど」の運動とは……

 1日24時間の総歩行数=「8000歩」
 そのうち中強度の運動(歩行)を行う時間=「20 分」
 この2つを組み合わせた数字です。

★.「8000歩/20分」

 これが、私が研究をもとに導き出した健康長寿を実現する「黄金律」であり、あなたの健康を維持するための重要な数字なのです。

 では、「運動強度」とはいったい何でしょうか?
 運動強度を表す「メッツ(METs )」という単位があります。
 この単位「メッツ」の言葉をとって、私の提唱する健康法は通称「メッツ健康法」と呼ばれています。
 METs とは、「代謝当量」という意味です。


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 音楽を聴いている時、読書をしている時、テレビを見ている時など、
★.「安静にしている時」を「1メッツ」とします。
 1メッツの酸素摂取量は、年齢・性別にかかわらず、
 1分間に体重1キロあたり3・5ミリリットル
と決まっています。
 「1メッツ」は世界共通のものさしです。
 この安静時の「1メッツ」を基準に何倍のエネルギーを消費するかで、活動の強度を示します。
 「3メッツ」は、安静時の3倍の代謝をしている活動、「7メッツ」は、安静時の7倍の代謝をしている活動という意味です。
 最大20数メッツまであります(ただし、20数メッツはマラソンのオリンピック・チャンピオンの数値です)。

 最近では、どの活動がどれくらいの運動強度をもつのかが明らかになってきています。
 参考までに、国立健康・栄養研究所が発表している「身体活動のメッツ表」からいくつかを表に抜粋して掲載しておきます。

■あなたにとっての「中強度」の運動とは?

「運動強度」とは、聞き慣れない言葉ですし、少し難しいかもしれません。
 しかし、あなたの今後のウォーキングで大事なポイントとして、まとめると、たったひと言になります。
「なんとか会話ができる程度」の速歩き
 それが、あなたにとっての「中強度」の運動です。

 のんびり散歩のように、鼻歌が出るくらいの歩き方だと、ゆっくりすぎます。
 競歩などのように、会話ができないほどの歩き方だと、速すぎます。
 「中強度の運動」を測る基準は、「なんとか会話ができる程度」の速歩きなのです。

 では、ここでみなさんにひとつ問題を出します。
 速歩きをするのに、もっとも適した時間帯は1日のうちのどこでしょうか?

①早朝、②日中、③夕方、④就寝前

 どの時間帯か、わかりますか?
 正解は、③の夕方です。

 そして、もっともおすすめできないのは、①の早朝です。

■なぜ朝のウォーキングはよくないのか

 まず、なぜ、夕方に速歩きをするのが最適なのでしょうか。
 夕方の4〜6時は人間の体温がいちばん上がる時間帯です。
 夕方に速歩きをすれば、筋肉に刺激が与えられ、血液のめぐりもよくなります。
 そして、ピークの体温がさらに上がります。
 そのため、最高体温と最低体温の差は広がります。

 また、夕方のピーク時から徐々に体温が下がり、就寝時の体温に至りますから、夕方の体温が高ければ就寝時の体温も高くなり、起床時よりも就寝時のほうが高くなります。
 そして、平均体温も必然的に上がります。

 そして、朝が危険な理由。それは、朝起きた時、人の体は「カラカラの状態」だからです。
 水分がカラカラの状態ということは、血液がドロドロの状態ということです。
 そんな状態で、いきなり運動を開始するとどうなるでしょう?

 心疾患や脳卒中が起こるリスクが高くなります。
 事実、脳卒中や心疾患の発症を時間帯別に見ると、午前中に集中しているのです。
 脳卒中や心疾患を予防するためウォーキングを機に病気が発症してしまったら本末転倒。
 ですから、あなたの健康を維持するために「起きて1時間以内」のウォーキングは避けていただきたいのです。

 では、「8000歩/20分」のウォーキング生活は、どのくらい継続して行うと大きな効果が得られるのでしょうか?
 1つの大きな目安は、2カ月です。
 なぜなら、2カ月であなたの「長寿遺伝子」にスイッチが入るからです。

■長寿遺伝子の力

 長寿遺伝子とは、体内で細胞の損傷を防いだり、エネルギー生産に影響を与えたりしている「サーチュイン(Sirtuin)」という酵素をつくるはたらきをもった遺伝子のことです。

 2003年、アメリカのマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ博士が、酵母の長寿遺伝子「Sir2」(サーツー)を発見しました。
 その後の研究によって、人間には「Sirt1〜7」までの7種類が存在することがわかっています。

 長寿遺伝子は、誰もがもっている遺伝子であるにもかかわらず、普段は眠っていて、いつどのようにすれば活性化するのかまでは解明されていませんでした。
 ところが、その後もさらに研究が進められた結果、2012年にスウェーデンのカロリンスカ研究所によって
 「1日20分程度の中強度の運動を2カ月続けることで、長寿遺伝子のスイッチが入る」
ことが証明されたのです。

 ちなみに、「8000歩/20分」の生活を中断してしまうと、長寿遺伝子はどうなるのでしょうか? 

 2カ月間ほど休むと、長寿遺伝子は残念ながら再び眠りに就いてしまいます。
 ですから、あなたの体内で眠っている長寿遺伝子を目覚めさせ、そして常に活性化させておくためにも、「8000歩/20分」のウォーキング生活を毎日続けてほしいのです。







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